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「宇宙大怪獣ドゴラ」にエヴァの原点を見る

 自作映像関係の投稿が続く中、久々の論評です。

 さっきCSの日本映画専門chで「宇宙大怪獣ドゴラ」を放映してましたが、特撮好きの私としては不覚にも、ドゴラは今回が初見でした。まあ、東宝特撮でも恵まれない作品はなかなか観る機会がないもので、「決戦!南海の大怪獣」とか「エスパイ」とかも未見だったりします(「ノストラダムスの大予言」は鑑賞の機会自体が難しいですが)。
 東宝特撮DVDブックを買えばいいのに、という突っ込みはスルーして。

 で、「ドゴラ」を一見したところ、何か雰囲気が違うんですよね、撮り方が。
 いつもの円谷・本多コンビ、そして関沢新一脚本なのに、特に特撮シーンが東宝ぽくない、というか、これまで目に親しんできたアングルと微妙に違うんです。例えば戦闘機の飛行シーンにしても「地球防衛軍」ではF86Fの編隊を延々とロングで捉えながらも凄い緊張感が伝わってきたのに、「ドゴラ」では離陸にしろ展開にしろ、ちょっと間の外れた印象を受けるんです。もちろん過去作と同じ撮り方を避ける方法論を執ったとは思いますが、後述する怪獣ドゴラのイメージが怪獣のカテゴリーから外れているのでか、作劇の構成が従来と異なっているからか、どうもしっくりこないんです。後々に出てくる東宝超兵器も、「海底軍艦」と「サンダ対ガイラ」に挟まれれば霞んでしまいます(時系列では「モスゴジ」と「三大怪獣」の間です)。

 でもそういった違和感は、「ドゴラ」を東宝特撮の(子供向け)カテゴリーに無理やり押し込めるから来てしまうのであって、単体の一般映画として観た場合、世間で言われるような駄作だとは到底思えません。
 むしろSF映画として捉えれば、当時の日本映画では極めて挑戦的な快作と私には映ります。ただ挑戦的だからこそ、未消化な側面が散見されるのは仕方ないことですが。

 その挑戦的な側面、怪獣ドゴラのイメージ、これがSF的にはなかなかgoodなんです。宇宙から大量に飛来するクラゲ様の謎の生物。炭素を地表より吸い上げ(炭素化合物が宙に上昇する画づらはシュールで最高!)、触手で鉄の大橋を持ち上げる大技を見せたり、あるいは透明な肉塊群となって大気中を浮遊する。変幻自在な変貌振りは民衆や対策にあたる当局を悩まし、物量砲火では太刀打ちできず終局は科学者発案の化学戦法で退治に至る。
 同時に、ドゴラとは別個に日本で暗躍するダイヤ強盗団を追う、警察と国際調査員の活躍がカット・バック。ダイヤが炭素の純粋結晶という組成が両者をリンクさせる鍵となり、ドゴラへの対応策が苦しいながら強盗団の掃討にトドメを刺す、という流れ。
 純粋な怪獣映画とすれば一本レールから外れた感じですが、SFアクション映画としては全然アリです。しかし、当時の日本はSF映画=怪獣映画であり一般映画からするとランク下ですので、それからも外れているとなると確かに評価のしようかない訳です。今では「ブレードランナー」やタルコフスキー以降、ビジュアルとともに文脈を楽しむSF映画が浸透してますが、東宝特撮のラインにある以上評価がマニア方向で高いのも仕方がありません。

 しかし、今回「ドゴラ」を見てて何か、既視感を覚えたんです。不定形な謎の生物、陰で暗躍する敵組織、そて東宝特撮の中でも密度の高い科学的対処作戦………。

 あっ、「新世紀エヴァンゲリオン」と重なるではないですか。

 もちろんエヴァは「ウルトラシリーズ」や東宝特撮のインスパイア産物ですから、これらのどこを採ってもエヴァに似てくるのは全く不思議ではありませんが、怪獣ドゴラのイメージが東宝作品の中ではエヴァの使徒と特にシンクロ率が高いように見えて仕方ありません。
 触手で攻撃するさまは第四使徒シャムシエル、クラゲ状形態の不気味さはサハクィエル、アラエル、分裂し増殖する様はイロウル、そしてどう転がるかわからない浮遊様態は前述のほかラミエル、レリエル、アルミサエルと、それぞれイメージが複合してたりしています。
 ドゴラ以外の東宝怪獣は、子供もわかりやすくするため割とビジュアルがしっかり固定しています。ウルトラシリーズにしてもQのバルンガ、マンのブルトン、帰マン(懐かしい呼称でしょう)のバギューモンと不定形生物は存在しますが、ドゴラ並みの変幻自在とは行かず(エヴァ後の実相寺逆輸入、使徒獣・魔デウスは置いといて)、またドゴラはそれらの原型でもあり、使徒をデザインする際に意識されたのは間違いないでしょう。
 対処作戦にしても、エヴァでも物量にモノを言わす攻撃が大半ですが、心理戦にも近い組成の読み込みは第拾参話「使徒、侵入」を彷彿とさせますし、使徒の組成を探る展開も近似値ながら重なります。
 ダイヤ強盗団とNERVを重ねるのは無理があるように見えますが(ネルフの原型は「謎の円盤UFO」のSHADO)、不気味で無様な仲間たち振りはラインに沿っています。天本英世氏演ずる団長が、マヌケ寄りのゲンドウにも見えます。

 しかしもっとも不気味なシンクロを示すのはドゴラの様態と同時に、締めの落ちネタです。宗方博士が学会で渡航する際、「宇宙細胞の平和利用を」と告げます。しかしドゴラの特性はこの段階ではそのままだし、保存運搬に適した不活性化はどんな形?
 さしづめベークライトで固めて?
 エヴァのイメージ、そしてアダムの運搬エピソード自体、「ドゴラ」の後作の「フランケンシュタイン対バラゴン」が明らかなモデルになってますので、庵野さんたちの脳裏ではその流れが存在しているはずです。
 そもそもエヴァの運用形態は原発がモデルにされていて、この時代はまだ核の平和利用という言葉が明るい方向に向いていましたから、作劇者の立場からすればその裏で、ドゴラの細胞が軍事転用される可能性も読み取れてしまいます。
 しかも国際調査員が(この人の台詞は吹き替えでなく、直にたどたどしい日本語なのも全体にポイント高いですが)日本側の主人公たちが翻弄されていたのは、調査員側の囮作戦でもあった、と漏らします。だいたい実体を見せない分、国際ダイヤ保険協会というのも強盗団並みに怪し過ぎで、まるでネルフと加持とゼーレの裏三つ巴です。そこにダイヤとリンクする使徒みたいなドゴラが介入してきて、しかも深読みすればドゴラ再来の可能性も捨て切れません(そのあたりはヘドラに反映されています)。

 東宝特撮でエヴァの下敷きになっているのは、他にも「モスラ」「世界大戦争」「妖星ゴラス」などが挙げられ、エヴァ対使徒、エヴァ対エヴァの壮絶さ、悲愴さはまさに「フラバラ」「サンダ対ガイラ」から導かれていますが、使徒の不定形で不気味なイメージが私には、国内ではこれまで見出せなかったのです。その穴を埋めたのが、さっき見た「宇宙大怪獣ドゴラ」だったんですよね。
 ああすっきりした。

 本当はエヴァの凄まじい突っ込みどころとして、以前より「死海文書」のことを挙げたいと思っているのですが、これ本気でやりだすと直な原典とガチなキリスト教から入りますので、世に流布するエヴァ本よりも遥かに深い分析(深読みでなくて)で本の二、三冊は費やしそうですので、今は止めます。ON AIRで視てた時リアルの神学を学んだ学徒として、エヴァの設定に対し「マジかよ!」を大連発してましたから。バチカンに訴えられないか、と本気で心配してましたし(まあ「薔薇の名前」とか「ダヴィンチ・コード」とか平気で出ましたから杞憂でしたが)。

 先日の上映会のレポートを載せるつもりが、勢いでこんな記事が先行してしまいました。結論を言えば、興行的に大惨敗です。いずれ書きます。

  by miyazawa_hideo | 2012-12-06 04:01 | アニメ評論

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