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「鋼の錬金術師」クライマックスを観終えて

 たった今、CSで「鋼の錬金術師」#63を視聴。
 本当の最終回は次ですが回収のお話となるでしょうし、話の核心部分はこの時点で描き終えたと思います。それに「ハガレン」総論となると原作網羅が必要になるなど構築に少し時間がかかると思いますので、今ここで思ったこと二点だけ走り書きしておきます。
 
 まずホーエンハイムのこと。以前のアニメ化で原作に反しラスボスになっていて、方法としてはそれもアリだろうけど話が浅くなったな、と少し落胆を覚えたので、今回は最後まで父親でいてくれて正直安心しました。前回は人の業より等価交換そのものに重点が置かれていて、それが父と子の葛藤にすり替わって最後は収まりが悪かったとの印象がありました。しかし後に荒川先生が子供もいる女性と判明してからは、そのもやもやがはっきり違和感に変わったのです。
 水島監督ご自身が実際に父親と確執があった、もしくは父と子の葛藤を描けば連載中の原作に準じず風呂敷がたためると考えていらしたのでしょうが、後のアニメ化の内容を検証すれば誤謬とは言わないけど、私は方法的に適切でなかったと思います。ここで援用すべき荒川先生の男性観女性観がまたこれが独特で、顕すとしたらここでは展開できないので割愛します。
 あと、アルフォンスを助けるためにホーエンハイムが「俺の命を使え」と言い、エドワードに拒否られましたが、私は筋を通して美しく締めるには、ホーエンハイムの命が使われても別によかったのではないかと考えます。基本的にエドやアルたちと物理的に深くかかわっていなかったので、「最後ぐらい父親でありたい」と言ったのち無理やり練成し、ホーエンハイムの亡骸の横で生身のアルが現れる、それでもよかったのです。これは明らかに父親から子への魂の継承であり、神話でもテンプレです。しかしさすが女性作家、荒川先生はそれを封じてあんなことしちゃった、と感心したのです。が、この後の考察はまたのちのちに。

 それと、"フラスコの中の小人"、『お父さま』、つまりホムンクルスについてですが、なるほど落ち着くべきところに落ち着いたようです。それは単に、殊更に悲劇も残さず希望を旗印にして無難に収めた、というレベルではありません。一応記しておきますが、現実いた錬金術のことは多少調べてあります。
 だいたいホムンクルスが単体で完全な存在になるのは不可能です。それは話の端々に出る「一は全、全は一」というフレーズを精査すれば理解に届きます。全とは存在、つまり宇宙総体のことであり、決して単体の特殊な存在ではありません。一はわれわれ個々の存在でしかないと字面から想起される嫌いがありますが、一個一個の存在、つまり「一」は「全」によって包括されている(「全」は「一」によって包括されている、とも言えるが)のであり、ホムンクルスのように「一」に囚われた「全」が「完全な存在になりたい」という欲望を現実に変えるには、宇宙全体をつぶして自らのエネルギーとなすか、この我々の住む閉じた宇宙から出て別の場所に行かねばなりません。それは不可能です。
 『お父さま』は多量の人間の魂を取り込んで神になろうとしましたが、本当の神になるなら前述したように、宇宙そのものを取り込む暴挙を犯すしか方法がありません。実際そうしようとする描写もありましたが、あれではオーバーフローで自滅してしまう、と思って見ていたら案の定そうでした。もし彼が「人間になりたかった」のなら、それは存在様態を変化させるものではなく、パーソナルな心の有り方を変える事が主軸となり、大活劇にはならなかったでしょう。だからホムンクルスが人の世での形を失ったのち、門の前で門番と口論したのは、結局自問自答となった訳です。別にホムンクルスが悪であり、門番が善である訳ではありません。ホムンクルスは人間を愚かだと裁断しましたが、門番はホムンクルスを愚かと裁断しており、また作中での言及はありませんが、門番は自身をも愚かだと裁断しているのと一緒なのでしょう。
 だからホムンクルスは基本的に人間と同じで、違うのは人間が生存欲より派生する意志を持ち、またその意志を忘れることも出来る一方、ホムンクルスは生存の仕組みそのものとして意志をROM的に保持しており、揺るがない意志の発露を持続することは可能でしょうが、他人の意志を自らとの比較で計ることはできても理解はできないのです。そして産まれ出でた時から抱く欲求を忘れえず、それが意志と転化した後、環境や状況、他の存在の意志を省み得ずに自らかなえようとしたのです。そこから先に「一」はありません。「全」に取り込まれる、というより自らも「全」であることを否応なしに思い知らされ、後には絶望だけが残る結果となったのでしょう。

 短く書き留めるだけのつもりでしたのに、予想外に長くなってしまいました。この後も短時間で十枚は書かなければならないのに、大丈夫でしょうか?いちおう、明日の更新は欠かさない予定ですが、かなり遅くなるかもしれません。
 そしてもちろん、かなり後々に「宮ゲ!」で「鋼の錬金術師」論は展開します。今日の勢いを鑑みると、かなり長くて濃い論述になりそうです。では。

  by miyazawa_hideo | 2010-10-01 00:20

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